日本で知らぬ者はいない乳製品メーカーとして100年以上の歴史を持つ森永乳業。最近ではあらゆる世代へ乳製品を届けるデジタルチャネルの活用にも取り組み、ダイレクトに顧客に製品を届ける「宅配ミルク」をはじめ、同社製品のコマースサイト、工場見学サイトなど、50以上ものデジタルサービスやサイトを運営している。

森永乳業はこれまで、自社システム開発と運営をほぼパートナー企業に依頼していた。しかしDX化の波により、「経営と事業に貢献するIT」という新たな事業方針が打ち出され、パートナー企業中心であったITシステム戦略の指示系統を森永乳業内部に再編することになった。大幅なシステム改革の刷新を行うことで、社内システムはシステム企画部門と運用部門で推進されることになった。

DXによる内製化へのシフト

多くの企業が「デジタルトラストフォーメーション」や「ITイノベーション」といった変化が求められている。日本では事業主である企業がSIerとパートナーを組むことが多い。しかしDXの波により、エンジニアリング部門が自社プロダクトの開発・運用の主となり、事業部門と正しく連携を取ることが必要になってきた。そして現在、「デジタルビジネスの内製化」を推進する企業が増えている。DXは「変化に俊敏に対応できる企業体質や文化を創造する」ことだ。データ活用がビジネスの成功につながるようになった昨今では、システムとビジネスのどちらも内製化することが競争上の優位性を確立するカギになってきた。

森永乳業では、これまで各事業部門のウェブサイトやデジタルサービスは、部門ごとにシステムパートナー企業に開発・運営を依頼してきた。同社の維持するサイトの数は膨大であるにもかかわらず、システム戦略や運用、データ活用に関する共通した管理手法をもっていなかった。DXの波もあり、「事業に貢献するIT部門」という全社目標への変革のために、事業全体のシステムを企画から開発・運用まで統括する必要が出てきた。

社内の改革で特に重要視されたのが「スピード感とレガシーシステムの可視化」だという。経営戦略部IT改革推進部 石井俊光氏は次のように語る。

 


石井 俊光 氏 / 森永乳業株式会社 経営戦略本部 IT改革推進部 アシスタントマネージャ

 

「例えば新商品などを提供する場合、同時にマーケティングデータも収集したい。また良い販促企画があっても、パートナー企業に依頼していると、どうしてもカットオーバーに時間がかかってしまう。スピード感を持って取り組みたいのに間に合わないこともありました。しかしシステム戦略や運用の内製化を進めることで、従来は2か月くらいかかっていた開発が、2週間くらいで実現できるのではないかと期待しています。」

同社はITシステムの内製化を進めるにあたり、まずはシステムのクラウド化を推進し、多くのシステム基盤を AWS へ移行した。これは社内システムだけでなく、「宅配ミルク」などをはじめ、BtoCでサービスを提供しているフロントエンドサービスも、内製化による開発・運用に移行することになった。またレガシーシステムのウイークポイントであった、システムの肥大化・複雑化やブラックボックス化を解消すべく、可視化できるシステム構築が進められた。

少数精鋭で事業全体のシステムを管轄

一方でクラウド化を推進すると、様々な課題も見えてきたという。例えば同社が運用する「宅配ミルク」のウェブサイトでは、顧客との接点が日々増加し続けている。そのためトラブルが一旦起きてしまうと、早急に原因を究明しなければならない。DXによる変革は、顧客エクスペリエンスの変革を図ることにもつながる。そしてスピードこそ求められる業務改革の一つである。

「クラウド化を推進する上で重要視したのがシステムパフォーマンスの可視化です」と語るのは、情報システムセンターアシスタントマネージャ 清田雅一氏と髙橋鉄平氏。

 


清田 雅一 氏 / 森永乳業株式会社 情報システムセンター アシスタントマネージャ セキュリティネットワークチーム

 


髙橋 鉄平 氏 / 森永乳業株式会社 情報システムセンター アシスタントマネージャ デジタル推進チーム

 

以前は両氏とも、システムの可視化が出ていないため、一つひとつのログを調査し、トラブルシューティングまで膨大な時間をかけていたという。そして必要があればパートナー企業とミーティングを開いて問題を解決していた。前述の「宅配ミルク」サービスは、製品の品質を担保するのは言うまでもなく、ウェブサイト上での顧客との蜜なコミュニケーションが核となる。清田氏は「トラブルシューティングに数日かかるのは致命的な問題に発展する場合もあり、このままで企業は競争力の維持・強化にはとうてい辿り着かない」と考えたのだという。そこで自社サービスの可用性やシステムの信頼性を可視化するために、レガシーシステムの脱却・更新を行うことになった。そしていくつかのシステム性能管理製品を比検討する中、New Relicの導入を決定した。

New Relicを選定するにあたり、システム性能の可視化が他社製品より優れていると判断したのには別の理由もあった。それは少ない人的リソースで運用体制を確立する必要があったからだ。これはどの会社でも同様のIT人材不足につながる話になるが、森永乳業でも6名のシステム運用の全員が同じ業務に取り掛かれる訳ではない。「宅配ミルク」のウェブサイトを運用する場合、実際に運用・管理できるのはごく少数になる。そこでシステム運用において重要な指標を可視化することで、少人数でも効率的な運用を可能にしようと考えたのだという。そしてさらにNew Relicを選んだ決定的理由を前出の石井氏は以下のように語ってくれた。

様々な可視化ツールが検討される中、New Relicは直観的操作に優れ、日本人による日本語のサポートがあり、加えて魅力的な価格帯だったことも選定理由になりました。人材リソースが豊富な体制なら、外国語のサポートでも問題にならないでしょう。しかし少数精鋭で運用する場合、サポート体制の充実が無いのはクリティカルポイントになります。英語だけのサポート製品と比べると、日本人による営業支援や技術サポートはマスト要件でした。また導入しやすい価格帯なので、まずは試してみようという気持ちになりました。実際トライアル導入をしたところ、まださほど慣れていない状態でも問題のある個所をいち早く検出することができました。」

事業部門とシステム部門の共通言語を確立

森永乳業では社内システムのクラウド化を進めた結果、取り組むべき課題が多く見受けられるようになった。例えばあるウェブサイトは立ち上げた当時のまま運用されている、別のサービスサイトは立ち上げただけでまったく手を加えていない、といったようなことだ。そこで、そのような既存サイトを含め、モバイルアプリケーションや同社が管理する複数サイトの効果測定にも積極的にNew Relicを使う検討に入っている。導入すれば、サイトがいかに多くても横断的な監視や運用、管理が可能になるからだ。

一方でビジネス部門の社員に対し、社内ワークショップを開くことで、システムの可能性について学んでもらっているとのこと。この取り組みの目的は、この先事業のデジタル化がさらに進めば、ビジネス部門でもよりITリテラシーが求められることになる。これは森永乳業の経営陣が現在DX化にコミットした方針を打ち出したことからもわかるが、そのためには事業部門とシステム部門の共通言語、共通認識が重要になる。New Relicを導入したことは、森永乳業のデジタルシフトにおける共通言語として機能することにもなる。そしてネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革にもつながるはずである。

同社の2年前の中期経営計画は「真に経営に貢献するITシステムの確立」を掲げて、改革をスタートさせた。その時の目標は既に前倒しで実現し、マーケティングや広告データのシステム連携が自社運用で計測・収集できるようになっている。そして現在、New Relicを導入したことで、少人数でも事業全体のシステム運用を可能にするきっかけをつかんでいる。森永乳業のエンジニアチームがさらに強い事業会社として攻めのマインドセットを構築していくことにますます力を発揮していくことだろう。